曲紹介
67年の作品"More Than a New Discovery"の再発とか。私にとってはこのアルバムが3枚目に聴いたローラのアルバムでした。1枚目に洗練されたニューヨーク・テンダベリー、2枚目に弾けまくったイーライを聴いた私にとっても、このファースト・ソングスは驚きでした。私がローラ・ニーロを聴くようになったのは、2002年の秋に、あるラジオ番組で紹介されているのを耳にしたからなのですが、その時のコメンテーターも1枚目を聴くべきだと言っていました。それがなんとなく分かるような気がします。
音のアレンジは少し時代的なものを感じさせますが、歌声はちっとも古くさくないです。ジャケットは赤がバックの赤いバラの絵。ちょっと見、クラシックのジャケットみたいですが、上品な感じで良いと思います。実際、バックの楽器演奏者には、クラシック畑の訓練を受けた人がいたことでしょう。最初のアルバムで曲はすべてローラ自身の作詞・作曲。そこに、こんな手の込んだオーケストレイションのアレンジ。若い一人のアーティストのために、大人達が動員された様子が目に浮かびます。それでこんなものを作り上げるのだから、やっぱりすごいですね。
ちなみにローラ・ニーロというと、すぐに白黒のイメージばかりを想像しがちですが、ジャケットの色は暖かみのある赤系統の色を使っていることも多いので、このサイトのバックカラーも赤みを帯びた色にしてあります。
1曲目:ウェディング・ベル・ブルース
"Wedding Bell Blues"教会の鐘を模したようなピアノの前奏で始まります。ローラの曲でも、ピアノの前奏が印象的な曲の1つになると思います。他にピアノの前奏が印象的な曲と言えば、イーライのストーンド・ソウル・ピクニックのテケテケ・ズンチャ・ズンチャが挙げられます。それはともかく、この曲、牧歌的ではありますが、歌詞は深刻なようです。こんなに乞い願ってもBillさんは結婚してくれなさそうなので...。
1966年の9月にストーニィエンドとのカップリングでシングルカットされていますが、チャートでの最高位が103位だそうです。悲しいかな、ローラの曲はシングルカットされてもチャートに入ること自体がまれでした。アメリカでオールディーズのFM局を一日中つけっぱなしにしておくと、年に3回くらい、この曲を他の人が歌っているのを聴くことが出来ます。
2曲目:ビリーズ・ブルース
"Billy's Blues"ちーん・ちーんというチャイムで始まるこの曲、終わりにもチャイムが2回鳴る予定だったのに編集段階でカットされてしまったそうです。それはかなり惜しいことのような気がします...。
1曲目で自身はウェディングベルを欲する憂うつ状態にあり、2曲目では対するビルさんの方も何らかの憂うつ状態にあるということでしょうか。
3曲目:カリフォルニア・シューシャイン・ボーイ
"California Shoeshine Boys"ハーモニカで始まるこの曲、シューシャインボーイという言葉に影の意味があるのかどうか分かりませんが、「私の靴、磨いてもいいわよ」というのは、意味ありげ。それはともかくアップテンポでなかなかよろしい。
4曲目:ブローイング・アウェイ
"Blowin' Away"シングル向きの曲のような気がするのですが、カットされてはいないようです。自身がぶっ飛んでしまいそうになる、高いところの存在とくると、単なるホレタハレタの歌詞ではない可能性がありますね。
5曲目:レイジー・スーザン
"Lazy Susan"明るい曲ではないのですが、気に入っています。せつせつと歌いながら、感情の盛り上がりがあり、途中で薄日の差すようなところもあります。こんな曲を作れる人ってすごいなと思います。この曲を聴いて、ローラが男性よりも女性を指向していると気づいた人がいるそうですが、鋭い勘をしているな、と思います。
6曲目:グッドバイ・ジョー
"Goodbye Joe"明るい別れの曲。2枚目のシングルとして1967年の2月に。このアルバムは特に最終曲のイメージが強いので、ついついローラは年の割にませた歌詞を書く、と思い込んだりしますが、別れの曲を明るい調子で書いたりするところなどは、年相応でいいんじゃないかと思います。
7曲目:フリム・フライ・マン
"Hands off the Man(Flim Flam Man"3枚目のシングルとして1967年の4月にアンドウェンアイダイと一緒にカット。あんな男とは関わらない方が良いと単純に第三者的に忠告しているのか、あるいは、ひどい男だと分かっているんだけど実は自身も惹かれているのか、ちょっと気になります。
8曲目:ストーニィ・エンド
"Stoney End"この曲は譜面集に載っています。曲調は明るいのですが、歌詞の内容が暗いです。それが組み合わさっているのだから、聞く方としてもたまらない気持ちになります。録音の音質がちょっと良くないのが残念です。また、この曲のピアノはローラが弾いているのでしょうか?和音をぶっ叩くローラの弾き方と、ちょっと違うような気がします。
9曲目:アイ・ネヴァー・メント・トゥ・ハート・ユー
"I Never Meant to Hurt You"ここからスローな曲が3曲も続きますので、最終曲までスキップしてしまうことも多いのですが...。歌詞は「気配りの足りないことを言ったかもしれないけど、傷つけるつもりはなかったの」とか何とか。はいはいまあ好きにしてください、ご馳走様です、てなとこです。
10曲目:ヒーズ・ア・ランナー
"He's a Runner"5曲目のところで、ローラは女性を指向と書きましたが、それは晩年に顕著になるのでありまして、このファーストソングスで数えてみたら、男性について歌っていると推定されるのは1、2、3、6、7、10番と、意外と多い感じがします。このアルバムが発表されたのはローラがまだ19歳のときであり、まだ若かったわけです。
この曲で言えば、男は去って行くもの、という一種の諦めを表したのかもしれません。だからそれが晩年の傾向に影響したのかもしれないし、この段階では単に男の習性について語ったのかもしれません。どっちがどうと言えるものでもないかもしれません。
11曲目:バイ・アンド・セル
"Buy and Sell"スローな3曲の中では音楽的に一番良いと思いますが、歌詞がまた年齢不相応です。「売り買い」に、ある種の職業を思わせる意図があったのかは不明です。歌詞の内容的に最終曲につながる意図があったと思われます。
12曲目:アンド・ホエン・アイ・ダイ
"And When I Die"9、10、11曲目と割と静か目できて、聴くほうとしては少し緩んでしまいそうなところですが、最後にこの曲で感動させられます。歌詞が泣かせます。"cold"と歌うところで---coldという言葉の意味もあるのでしょうが---声を震わせているのは、まったく地上の奇跡としか思われません。
金管楽器が咆吼したりするあたり、楽器の組み合わせには時代的なものを感じさせます。当時は、ジョージ・マーティンさん指揮のオーケストラがビートルズに混じって聞こえてきたような時代でしたから、こんなアレンジになってしまったのかもしれません。はっきり言って古めかしいサウンドに聞こえるのですが、ローラ・ニーロを聴く多くの人は、ローラの曲を大概聴いたあと、またこの曲に戻ってくると思われます。